shkatulca 「第0話」
 

いつも

 

女の子は本を読んでいました。
暗くなって 明るくなって
また暗くなるまで読んでいる日もありました。
また明るくなる頃には出掛けなければなりません。

また明るくなってきました。
それなのに眠くなりました。
 

また自分に振り回された…

 
最後に本を読まずに眠れた夜を
思い出すことはできません。

毎晩 毎晩 読んでいました。
そうしないと眠ることができません。

物語の中にでてきた、見たことも聞いたこともない
沢山の出会いを日記に書いて
毎日をなんとか繋いでいました。

そうしないと女の子は
なんだかいろんなことが怖くなって
涙があふれてしまいます。
そうなったらいつまでたっても眠ることができません。
 

ある月のきれいな夜
どれだけ本を読んでも女の子は眠れませんでした。
こんなことは これまでに一度もありませんでした。


 
そんな夜、女の子のもとに小さな箱が届きました。
 
 
 
「 親愛なるアナタへ
 
Hello

アナタがまだ知らない物語をお届けにまいりました
言葉のはじまりは心で 心は無限で
心を渡すのは言葉で 言葉は有限で
自分の知っていることはあまりにもちっぽけで
アナタにうまく心を伝えられるか怖くて
アナタに届く頃にはこの言葉がどこかにぶつかって
形が変わってしまうのが怖くて

随分 ここまで来るのに時間がかかってしまいました
 
アナタはこの物語を
アナタの物語だとは思わないかもしれない
でも、アナタに運んできたんだよ
 
じゃあ 始めるね 」

 
 
女の子は小さな箱の上にその手紙を戻しました。
 
女の子は世界中どこを探しても自分の物語なんてものは存在しないし、
沢山の本の中で花と話し、鳥と歌い、傘で空を飛んで
世界中を回ったけど本当はそんなものとは
ただの一度も出会ったことがありません。
 
それでも、その物語の中で呼吸をしてきたのだから
それはそれで素敵なことだと思っていました。

自分の知っている物語はどれも自分の物語になりうる。
 
でも自分の物語なんてものは存在しない。
そう思っていました。
 
 
コンコン… コンコン…

 
突然の音に女の子は驚きとっさに振りかえると
ドア?ドアをノックする音?
こんなところにドアなんてあったかな?

女の子はドアノブにそっと手を伸ばし
ガチャリとドアを開けました。
そこは、真っ暗闇でした。

……
 

手を伸ばせば届きそうで 
遠く遠くの真っ暗闇から聞こえるようでもある
距離感のない声が聞こえます。

どんなに耳をすましても 伝わってこない言葉達
助けを呼ぶ声にも問いかけにも聞こえる声

…...


女の子はなぜか「声の主のもとへ向かわなきゃ」
そんな思いでいっぱいになりました。
 
怖くて不安でいっぱいでも
その暗闇に足を踏み入れずにはいられませんでした。
 


「すぐに行くから待ってて」





第1話「garden」